COLUMN
ゴルフクラブの
“楽しさ”に
気づけた瞬間
Vol.2
クラブの性能を
数値化したパイオニア
20代半ばの駆け出し編集者だった私が、ゴルフクラブの“楽しさ”に気づけたのは間違いなくクラブ設計家・竹林隆光さん(フォーティーン創業者)とラッキーで貴重な出会いがあったからに他ならない。
「Gさんは、よく合コンに行くの?」
初取材の緊張感、私の引きつった表情をほぐすような問いかけが“合コン”だったことは鮮明に覚えている・・・ただの余談だ。今から約20年前、ゴルフ雑誌には竹林さんが多く登場していた。編集者はフォーティーンの代表者としてではなく、あくまでクラブ設計家としての見識を頼りにし、ゴルフクラブの解説をお願いしていたのだ。当時はドライバーのヘッドがチタン素材の台頭によって、300㎤から400㎤、そして460㎤へと大型化を辿っていた時代。取材の多くはそのメリットを竹林さんに解説してもらう内容で私も例外ではなかった。
「一例として大型ヘッドの一番のメリットは慣性モーメントが大きくできること。ただ重心距離が長くなりがちでそれが使いにくい、と感じるゴルファーもいらっしゃるでしょう・・・」。
今ではあらゆるメーカーの説明や有識者の話から自然に聞くヘッド性能を司る言葉の数々だが、当時はそれが当たり前ではなかった。目覚ましいヘッドの大型化によって、その明確な違いを紐解くために物理的見地が必要だったことで、世の中が注目した言葉であり、それを広げたのは竹林さんだったことは間違いない。当時聞き慣れなかったその言葉の数々、その考え方の原点を酒の席で聞いたことがある。
「かつてゴルフクラブの性能は感覚でしか表現できませんでした。どんなプロゴルファーに聞いても、どんな職人に聞いても、その表現は曖昧。経験則だけが物語る感覚値では新たなクラブを製作することも調整する際も目指すべき機能を明確にできない。その感覚を“数値”で置き換えられれば全てを明確にできる、というのが発想の源でした」。
一人のプレーヤーとしてゴルファーの視点でクラブの力学を研究し、今日のクラブの進化の礎を作り上げたその人が竹林さんなのだ。
「プロゴルファーが認めるクラブこそが優れている、かつてはそれが常識でした。私は多くのメーカーとの取り組み(フォーティーンはOEM設計会社として創業)で、アマチュアゴルファーがやさしく打てるクラブを研究し、世にない様々な“優しい”クラブを形にしてくることができました。その開発過程には感覚だけでは実現できない、狙った性能を具現化できる数値が必要だったのです」。
狙った機能を設計する。それに必要となる形状を描き、それをなしえる素材・構造を模索する。ゴルフクラブはその繰り返しで進化を遂げてきたことを、パイオニアである竹林さんから教わることができたのは、ゴルフ編集者として至福である。