2019/09/14

進化のイデア 第六章

進化のイデア 第六章

フォーティーンは現代に至るゴルフクラブの進化の礎を作り上げてきたメーカーである。その道を導いてきたのは創始者・竹林隆光。職人の勘に頼っていたクラブ作りに力学を導入し、既存と一線を画したアイデアを形にして、ゴルフクラブを進化させてきたのだ。

記事提供=ゴルフクラシック

竹林隆光

たけばやしたかみつ、1949年東京都生まれ(2013年没)。大学からゴルフを始め、卒業後ゴルフメーカーに就職する一方で競技ゴルフを続ける。77年日本オープンではローアマを獲得。81年に独立し、フォーティーン創立。内外メーカーのヒットモデルを設計・開発。00年を迎えるころには自社モデルを幅広く展開。中空アイアン『HI-858』、強烈スピン『MT-28』ウエッジなど大ヒットモデルを世に送り出す。

竹林隆光

たけばやしたかみつ、1949年東京都生まれ(2013年没)。大学からゴルフを始め、卒業後ゴルフメーカーに就職する一方で競技ゴルフを続ける。77年日本オープンではローアマを獲得。81年に独立し、フォーティーン創立。内外メーカーのヒットモデルを設計・開発。00年を迎えるころには自社モデルを幅広く展開。中空アイアン『HI-858』、強烈スピン『MT-28』ウエッジなど大ヒットモデルを世に送り出す。

六章 道具の影響力に 衝撃を受けた瞬間

トゥシャフトは
サードゴロ



フォーティーン本社、今はショールームとなった部屋には、かつてパーシモンが所狭しと並んでいた。そして片隅には妙なクラブもいくつか立てかけられていた。例えばウッドのクラウンの中央部分が円柱状にくりぬかれたもの(クラウンからソールまで円が貫通した状態)。あるいは、あらぬところからシャフトが飛び出しているクラブもある。「妙な」という表現、決して的外れではない。その数々が、既存を疑わない竹林のスタンスの表れ、実験で得る糧だった。

「いろいろやりましたね。例えばアイアンのヘッドを切断してトゥ側に付けたり、あるいはネックを切って位置をずらして溶接したり。前者は重心距離、後者はグースの違いでどんな結果になるか、試しました。今はロストワックスで簡単に作れますが、当時はとても大変な作業でした」。

またウッドでは重心距離ゼロ、つまりヘッドの重心がシャフトの真下にくるようなクラブを試したこともあったと言う。さて、右に出るか、左に出るか。結果はいつも神のみが知る。

「そもそもスイング中にフェースの向きがまったくわかりませんでした。しかも慣性モーメントが小さくなるからボールは右にも左にも出るし、距離はまったく出ない。『クラブってよくできているな』、このテストで実感したのがこれでした(笑)」

続けてトゥ側にシャフトを付けたヘッドも作ってみたが……。

「マイナスの重心距離ですね。これは野球で言えばサードゴロみたいなボールばかりでした」。

ヘッドスピード
2m/sアップで
飛距離がダウン?



グースのドライバーではこんなことを学んだ。

「超グースネックのドライバーをフォーティーンのコンペ参加者にアトラクションで打ってもらいました。スライスが出たのは20人に1人。ネックから下りてきてトゥに当たり、ギア効果でボールは左へ。フックを打つにはグースが強烈に利く。勉強になるテストでした」。

慣性モーメントの威力を知ったのは300㎤ヘッドだった。

「200㎤のチタンヘッドで、同じ重さ、シャフト、長さで、重心距離と重心高さのみ変えたクラブで実験。これを使用したプロゴルファーへの講義では、こちらは右、こちらは左へと、はっきり違いが出ました。ところが300㎤超のヘッドで同じテストをしたら思ったような結果が出ない。慣性モーメントの力を痛感しました」。

ヘッドウェイトのテストでは重量効果を確認した。

「ヘッド重量を160グラムまで落とすと(通常190〜200グラム程度)、ヘッドスピードは2m/s上がる計算になります。理屈からいえば10ヤードの飛距離アップになるはずですが、結果はダウン。重量効果がポイントで、ヘッドには一定の重さが必要なんですね」。

ボールをよく見ろ!は
大きなまちがい



今ならば3次元CADで簡単にシミュレーションできる。弾道追跡機もある。だが、そのころは実験自体も困難だった。

「業界誌の音頭で、あるメーカーのロボットを使用したテストがありました。スタッフは5〜6人、ロボットにセットするのに30〜40分もかかったでしょうか。で、いざテスト。ところが、一発でヘッド(パーシモン)が割れて、はい終了。耐久性の問題でした。

部屋を真っ暗にして行うインパクトアナライザーの実験では、ボールが見えなくてどうやって打つのかが問題になりました。ですが、アドレスしてから電気を消すとまったく問題ない。『ボールをよく見ろ』、レッスン論が必ずしも正しくないこともわかりました(笑)。

余談ですが、このとき上(天井裏)からも写真撮影。真冬で気温は0度。セットが終了したので、じゃ、テスト前に晩飯に行こうとなったのですが、天井裏にカメラマンの助手が残っていたのに戻ってきて気づきました。カメラマンが、ゴメンゴメン、下りてこいと呼んだのですが、寒さで固まって下りてこられない。師匠の指示があるまで動かない、カメラマンの世界も厳しいことを、この実験で知りました(笑)」

思い込みにも苦労した。

「ある女性テスターに飛距離を尋ねると150ヤードぐらいという回答。そこで130ヤードから線を引いていったのですが、いくら打っても届かないんです。しまいには泣きだしてしまい、それからは200ヤードと言われたら160ヤードぐらいもあるんだ、と肝に銘じるようになりました。ある雑誌の企画では溝なしアイアン(#5)をテスト。テスト前は“溝があるからスピンがかかる。こんなテスト必要ない”とテスターのプロ。ですが結果は逆で、何度打っても溝なしのほうがよく止まる。プロは“今のは当たりが薄かった、今のはちょっとかんだ”などいろいろ言い訳しましたが……。ドライなフェアウェイからのショットはボールとの接触面積(摩擦力)が勝る溝なしに軍配が上がりました」。

プロの言葉か
それとも力学か



こうした数々の試行錯誤、成功や失敗が蓄積され、好結果を残したものがクラブに採用されていく。

「ある程度の推測を立てて実験するのですが、実験を繰り返す度、またわからないこともいっぱい出てくるんですね」。

ただ、ここでサジを投げてしまえば、以前に戻るしかない。

「プロゴルファーという神様にお伺いを立てて、プロの言うことだから疑問も持たない。実は、これが誤りのスタート。誤りもあれば、感覚的な話を曲解してしまうこともある。会社という難しさもあると思います。いくら理論がこうだからと説明しても上司はなかなか首を縦に振ってくれませんが、プロが言っているとなれば意見は通るものです」。

42.5インチがいつしか45インチになった。200㎤が460㎤にまで到達した。

「我々は、もっと力学を信じて周りを説得しなければいけない。プロが長尺にブレーキをかけなければ、一般のゴルファーはもっと早くゴルフを楽しめるようになっていました。今は測定器の進化もあり、数字で確認が取れる時代です。ハナから耳を傾けてもらえない頃とは事情が違います。これからはシニアやレディスなど、個々のゴルファーを見つめ直すテストも必要になってくるでしょう。こうした部分はまだまだこれからです」。

かつて空気抵抗のテストで、走る車からクラブを出し、風の抵抗感で試した話を聞いたことがある(マネしないでくださいね)。結果は、ヘッドよりも面積の広いシャフトの影響力がとても大きかったという。結果よりも、必死にクラブを支える竹林の姿を想像すると面白いが、正しいを疑うことを、ゴルフ業界で唯一実践していた。