進化のイデア 第十章
フォーティーンは現代に至るゴルフクラブの進化の礎を作り上げてきたメーカーである。その道を導いてきたのは創始者・竹林隆光。職人の勘に頼っていたクラブ作りに力学を導入し、既存と一線を画したアイデアを形にして、ゴルフクラブを進化させてきたのだ。
記事提供=ゴルフクラシック
十章 別世界のスピン力、「MT-28」登場
3次元CAD浸透で
表舞台に
48インチドライバー『ゲロンディー』でゴルフ業界に一石を投じた竹林だったが、時期ほぼ同じくして2000年を前に、フォーティーンに暗雲が垂れ込める。
「3次元CAD、コンピューターを利用したクラブ設計の浸透です。ウチは比較的早く、95年にはCADを取り入れ、その数年後には金型加工のデータなども含めヘッド工場にCADデータで納品するスタイルを取っていました。ですが、ヘッド工場も次第にCADを採用するようになります。3次元CADを使えば、慣性モーメントや重心位置なども簡単にシミュレーションできます。といってもCADを使いこなす技術は必要ですが・・・」。
早くから取り入れたアドバンテージはもちろんあった。慣性モーメントや重心位置のメリットをいち早く理解し、どういうヘッドが好結果を生み出せるかも掴んでいた。が、数字を打ち込めばある程度の形が見えるため、CADが浸透するにつれ、いつしか似たようなものが多く出回るようになる。そうするとOEMの依頼は、パタッと止まった。
「私たち、フォーティーンは設計会社のノウハウで勝負してきた。だからメーカーとして表舞台に出たくて出たわけではありませんでした。ですが、やらざるを得ない状況だったのです。設計に自信を持ってしていても販売に関しては素人だったので(成功するかどうか)自信はありませんでしたが、もう進むしか答えはなかった。そこで、業界を見渡すと、わりと手をつけられていなかったのがウェッジでした」。
驚異のスピン力でアマチュアも異次元ワールドに導いた『MT‐28』のスタートだった。
プロの感性も凝縮
別世界のスピン力
「とにかく一般のゴルファーが強く憧れる、キュキュッと戻るバックスピンですが、それまで、憧れを実現するには打ち方しかないとされていたんですね。ですが、ウチはバックスピンの差はクラブの力が大きいことを理解していました」。
フォーティーンが掲げるテーマに、「クラブにできることはクラブに任せる」がある。これは肯定的な発信だが、その裏には「クラブでしか解決できないことがある」という主張が含まれている。その一つが、バックスピン力。
「フェースのスコアリングラインをよりシャープに。それまでは溝の断面形状がスピン量に影響を与えるとは思われていませんでした。エッジの鋭角さに注目するメーカーはなく、むしろ、ボールが傷つかないように鋭角さを避ける傾向にありました。『MT‐28』では、フェース面を機械加工でフラットにして平面度を高め、溝を一本一本彫刻する製法を取ったのです。量産品としては世界初のことで製造には苦労しました」。
ヘッド形状は、ツアーでも指折りの感性を持つ原口鉄也プロの意向を形に。フェース形状、ソール幅とバウンス角度、ネックからフェースにつながる懐の研磨。何よりも安心してフェースを開けること。原口プロのリクエストは繊細極まった。
「こだわりが強く、感覚は鋭敏、妥協も一切ない。原口さんの要求は非常に難しいものでした」。
最終的には、ソール面を平らにし、フェースを開くとバウンスが働き、安定したヘッドの抜けを実現。また、スコアリングラインのトゥ側エンドをやや斜めに、一方、ネックからフェースにかけての削りでネック上部に肉厚をもたせることで開きやすく、狙いやすさも実現した。『MT‐28』、ついに完成。いざスピン量、計測。
「それは別世界のものでした」。
女性初心者が
一発クリンヒット
原口の影響強く、『MT‐28』は瞬く間にプロに浸透。その人気は、勢いよくアマチュアにも飛び火した。
「スピン量に関しては角溝の影響が強かったのですが、(他社に)マネされるのが嫌で、ソールが平らだから、バウンス14度だからなど、違うところに目を向けさせるのにひと苦労。核心をごまかしていたんですね(笑)」
その威力、テレビの取材も入るほどで、それも後押しとなった。
「(本社がある)群馬のゴルフ番組で、『MT‐28』のスピン性能を取材したいと。ただ、お見えになったのは女性でしかも初心者。スピンは打ち手の技術よりクラブの影響が大きいとは伝えましたが、いくら何でも……」。
竹林が不安を抱いたのも無理はない。ある程度コンタクトできる力がなくて機能を発揮させられるのか。
「ですが、なんと一発目でクリンヒット。ボールはきれいにバックスピンで戻ってきたんですね。その後はダフリやトップでほとんどグリーンに乗るようなショットはなかったのですが、一発目の成功が強烈な好印象を与えてくれました。これはクラブではなく技術の問題でしたね(笑)」。
さらには、全国ネットでも……。
「石川次郎さん(著名編集者)が旅人となり、日本各地の技を発見する番組でしたが、おかげさまでいい宣伝になりました」。
フォーティーンにとっては心地よいクレームかもしれない。こんな電話も少なくなかった。
「お宅のウェッジで打ったら一発でボールが傷ついたじゃないか」。
対してフォーティーンは……。
「申し訳ございません。すぐ手直しさせていただきます。ただ、ボールは止まりにくくなりますが」。
こう対応すると、「じゃあ、いい」。
「そうご説明すると、直せという人はいませんでしたね」。
あるボールメーカーからは、“おかげでボールの消費量が増えた。感謝状を出さなくては”、そんな冗談も聞こえてきたという。また、ウェッジはおろしたてが最もスピンがかかると知って年間5〜6本購入する者も。
ヘッド素材は、軟鉄よりも耐摩耗性に優れ、一方で軟鉄同様の柔らかな打感を持つニッケルクロムモリブデン鋼を採用したものの、
「それでも下ろしたてが、やはりいちばん(スピンが)かかりますから。月例競技に出ているゴルファーなどには、心理的に安心するためにこういう方が多かったですね」。
竹林は述懐する。
スピン競争激化で
10年、ついにルール規制
「MT-28」の威力を見て、むろん他社も追随。スピン力競争は過熱の一途で、10年にはついにフェース溝にルール規制がかかるに至る。
「他メーカーのウェッジもボールが止まるようになり、あのルールができたと思います。自分たちの設計したクラブがルールにまで影響を与えたと思うと嬉しかった……」。
ドライバーやアイアンに比べれば、ともすると軽視されがちなウェッジ。その間隙(かんげき)を縫ってのフォーティーンの快挙だった。
「大きかったですね。『MT-28』がなければ、今のフォーティーンはないかもしれません。目指すべき道はまちがいではない、そう確信も持てましたから」
新たな船出を占う一本は吉どころか大吉と出た。