進化のイデア 第十一章
フォーティーンは現代に至るゴルフクラブの進化の礎を作り上げてきたメーカーである。その道を導いてきたのは創始者・竹林隆光。職人の勘に頼っていたクラブ作りに力学を導入し、既存と一線を画したアイデアを形にして、ゴルフクラブを進化させてきたのだ。
記事提供=ゴルフクラシック
十一章 日本ツアーを席巻し、 ロングショットを変えた『HI-858』
ここ20年、クラブセッティングは大きく変化を遂げた。ドライバーは460㎤の大型ヘッド、アイアンはストロングロフト化がなされた飛び系アイアン、そしてボールにはロングショット時のロースピン化が施された影響で、ウェッジのセット本数が増えつつある。中でも大きな変化を見せるのは、ショートウッドの充実やユーティリティの浸透によるロング番手でのフレキシビリティだ。プロの世界でも2番アイアンが消え、3番が消え。5番や6番アイアンからのセッティングも決して珍しいものではなくなった。
振り返れば、80年代にプロギアから『インテスト』が登場、タラコの愛称で親しまれ、90年代に入るとキャロウェイが『ヘブンウッド』で、ショートウッドに新たな風を吹き込む。90年代後半には再びプロギアが『ズーム』でユーティリティブームに火をつけ、リョービの『ビガロスメディア』が多くの支持者を集めたのも記憶に残る。
そうした中、別の角度から生まれたのがフォーティーンの『HI-858』だった。
「機能に優れるもののいまひとつ評価されないのが中空アイアンでした。ならば、これが中空アイアンの威力だというものを作りたかった」。
この連載の第三章で触れたように、スタートの思いはそこにあった。
「ウッドからアイアンにかけ形状がリニア(直線的)に変化するクラブを作りたい」。
ゆえに、『HI-858』は単品としてではなく、#2〜SWのアイアンセットとして設計された。が、がぜん評価されたのはロングアイアン。「寝起きでも打てる」、そんな声も聞こえてくるほどで、02年の日本ツアーではユーティリティ部門で使用率1位に輝く。
当初こそプロの反応はまちまちだったという。しかし、ある1打が状況を一変させた。
宮里優作、当時類いまれなるトップアマとして鳴らし、プロトーナメントでも互角に渡り合う力を見せた。そして優勝争いを演じた大会で、アゴの高いクロスバンカーから、ものともせぬ高弾道。
「あのクラブは何だ!」。
プロの間に衝撃が走ったのは01年。そして02年の使用率1位へ。その人気は海外にも飛び火して、同年にはアーニー・エルスの全英オープンVにも貢献した。
「とくにプロ用として考えていた長い番手は全英オープンも想定に入っていました。強風が吹き荒れる全英オープン、風の影響を受けにくいクラブが絶対必要になる」。
まさにドンピシャ、狙いどおりの結果となった。
「あの時は、1発だけでいいから、そういう約束でエルスに渡したんですね。ところが1発打ったとたん、もう1発、もう1発と……。米ツアー会場でのことでしたが、そのまま全英でも使ってくれました」。
若くしてメジャーを制し、一時期遠ざかっていたこともあったのだろう。優勝のインパクトは強烈だった。
中空アイアンの
地位を向上させた
それまでのユーティリティの主力モデルらが、アマチュア向けのやさしさを強調していたのに対し、『HI-858』はプロにとってのやさしさが込められていた。
「プロはレイアップ用としてティショットでロングアイアンも使いますが、アマチュアには見えない(インパクトの)上下のミスが多いんですね。『HI-858』は中空構造ですから重心深度が深く、またトップブレードも厚くし、ヘッド上下の慣性モーメントをアップさせました。結果、打点が上下しても一定のインパクトロフトを保ちやすい」。
もう一つ、大きな特徴は長尺シャフトの採用だ。プロにとっても歯を食いしばる番手、ロングアイアン。長尺化することでヘッドスピードを上げ、さらなる打ちやすさを発揮できた。
「クラブを長くするには、ヘッドの重心距離を長くする必要がありました。重心距離が短いものは、ゴルファーの意識としてはどうしてもシャープに振りたくなります。重心距離を長くすることでスイング中に重心位置を感じやすくなり、フェースコントロールを容易にさせる効果を持たせました」。
ロートゥ形状で重心が低く、高弾道を促進。またステンレスよりも強度に富むクロムモリブデンをフェースに使用。従来に比べフェースの肉厚が3分の2に抑えられ、長重心距離と相まってスイートエリアが拡大。フェースのたわみ量も大きくなり、初速の向上に寄与した。
こんな工夫もあった。フェースにはスコアリングラインがあるため、当然その部分は肉厚が薄く、強度に不安が残る。そこでスコアリングライン部分のみフェース裏側に肉厚をもたせた。こうした細部に渡る見えない努力も実って、『HI-858』、いや、中空アイアンは確固たる地位を築くに至る。飛び系アイアン全盛の2020年は、中空構造がパフォーマンスの根幹を担っている。
「波はありますが、中空タイプのロングアイアンは増えています。(中空の)あるべき場所はやはりあった。今も似たクラブが出てきてくれるのは、『HI-858』の機能面が評価された証拠。素直に嬉しい」。
リニアなクラブへ
動き始めたロング番手
そして今、フェアウェイウッドの進化で番手ごとの用途が見直されるようになり、ユーティリティとの境界も、もはやあいまいな状態にある。中空アイアンとユーティリティのそれも、またしかり。
「とてもいいことだと思います。どんどんリニアなクラブに近づいている」。
『HI-858』が生まれるおよそ20年も前、1988年に竹林は世界初の中空アイアン開発に成功しているが、それはウッドとアイアンの弾道の高さの差、それを埋める狙いもあった。とりわけアゲインストでの高低差の打ち分けはゴルファーに大きな負担を強いるが、この面でゴルファーをプレッシャーから解放したいという思いがあった。
今、まさにクラブの流れは竹林が目指した方向に動きつつある。
「最近の米ツアー中継を見ていると、本当におもしろいですね。ユーティリティの使用者が圧倒的に多くなり、それぞれの狙いやスイングのタイプで、いろいろなモデルやロフトが選ばれています。とても興味深い。またロングアイアンと中空とユーティリティとフェアウェイウッド、このカテゴリーで新しい何かが出てくると思います。かつてユーティリティへの拒否反応が強くありましたが、現代ゴルフではなくてはならない存在になっていますよね」。
超(長)尺ドライバー『ゲロンディー』で圧倒的飛距離、激スピンウェッジ『MT-28』ではあこがれのバックスピン、そして中空ロングアイアン『HI-858』で、歯を食いしばる番手から狙える番手へ。
「クラブにできることはクラブで済ませる」
その思想をフォーティーンというクラブメーカーは次々と体現していった。