2023/02/14

COLUMN
ゴルフクラブの
偉大さに
気づけた瞬間

Vol.1
クラブ設計家
竹林隆光さんとの
出会い

 今から約20年前の話。まだ私がゴルフ編集者として駆け出しだった頃、出展者として参加していたジャパンゴルフフェア。ブースの前を多くのゴルフメディアでクラブ解説を担当していた著名人が通りかかる。クラブ設計家・竹林隆光さん(故・フォーティーン創業者、当時代表取締役)だ。勇気を振り絞って声をかけて名刺交換。貴重な出会いを無にしたくない想いも手伝い、その場の勢いで取材の約束をさせていただいた次第だ。

 「〇〇日が希望で、それ以外なら他の方でお願いします」
 竹林さんを知る方は共感していただけると思うが、物腰はとても柔らかいのに発する言葉は直球系(説得力の塊)。初見では一瞬の萎縮を感じ、そのギャップが人間味だと不思議に親しめる感じ・・・。取材の話だが竹林さんにお聞きしたかったのは当時ブレークしていた「MT-28」の発想だ。「MT-28」は私の周囲の上級者たちの間でいつも話題の中心であり、日本男子ツアーでもウェッジ部門で使用率1位を獲得した、“ウェッジ=フォーティーン”という今日の価値観を作り上げた名器。とにかくスピン性能が群を抜いていた。ツアープレーヤーたちはボールを止める自在さに喜び、私たちのようなアマチュアでも技術の良悪が介在しないバックスピンに感動を抱いた。

ゴルフメディアのギア担当は、竹林さんを取材することでノウハウの多くを学んできた。現在、多くの有識者たちがギアを解説しているが、その言葉はもともと竹林さんが世に展開し、彼らもそれから多くを学んだのは間違いない。
ゴルフメディアのギア担当は、竹林さんを取材することでノウハウの多くを学んできた。現在、多くの有識者たちがギアを解説しているが、その言葉はもともと竹林さんが世に展開し、彼らもそれから多くを学んだのは間違いない。

 「短い距離でのウェッジのバックスピンはボールとフェースの接触時間の長さが重要です。フェースの平面精度にこだわり、溝1本1本のエッジを精度良く鋭角にして、その接触時間を長くさせました。量産品での製造過程は大変でしたが、性能は圧倒的でした」

 いわゆる“角溝”の登場。「MT-28」はあまりにもボールにかけるフェース面の摩擦力が凄まじいため、ボールのカバーが削り取れるほどだった。
 「ボールが傷つく!と数えきれないお怒りの問い合わせをいただきました。が、私たちは都度、“溝のエッジを無償で緩やかにしますのでお送りください。ただスピン力は保証できません”と丁寧にご対応したところ、皆さんご納得をいただきました」

 “角溝”の優位性はすぐに浸透し、単品ウェッジを発売するメーカーのほぼ全てにそれが搭載される。そして2010年、ツアーでは“角溝”ウェッジの使用がルールで禁止され、私たちアマチュアも2024年には適合外クラブとなる。
 「アマチュアゴルファーがプロのようなスピンショットが打てる、そんな思いで私たちが作り上げた“角溝”をゴルフルールが規制したことは、正直嬉しかった。フォーティーンの開発力をゴルフルールが認めたのですから」

 と、後に酒を飲みながら話してくれたことを鮮明に覚えている。名クラブ設計家である竹林さんとの数えきれない取材やゴルフプレー、酒の場において、いちアベレージゴルファーの私がいつも心地よく感じられたのは、いつも竹林さんがアマチュアゴルファーファーストであったこと。つまりフォーティーンとういうメーカーがツアープロではなく、あくまで私たちアマチュアゴルファーがターゲットとなるものづくりを徹底しているのだと、その柔らかい物腰の中に熱いポリシーをいつも感じていられたからだ。竹林さんという人がどういう方だったのか、それは次回に改めて詳しくお話ししたい。(編集長G)