2025/07/14

FOURTEEN SUPPORTING PLAYER
秋山卓哉さん 障がい者ゴルフ世界大会レポート

フォーティーンユーザーの秋山卓哉さんは、左足に義足を装着してプレーする障がい者ゴルファー。
今春、障がい者ゴルフの世界大会「THE G4D OPEN~the golf for disabled open」(5月15日〜17日)に、昨年に続き日本代表として出場しました。
秋山さんのアツい戦いをレポートします。

今年も来ましたウォーバーンGC。ハウス入口横には渋野日向子プロの写真が飾られています。「ここに立つと気持ちが上がります。一見、日本にもありそうな林間コースですが、地面の硬さやブッシュなどまったく別物です」
今年も来ましたウォーバーンGC。ハウス入口横には渋野日向子プロの写真が飾られています。「ここに立つと気持ちが上がります。一見、日本にもありそうな林間コースですが、地面の硬さやブッシュなどまったく別物です」

 20カ国、80名のトップ選手が集まって開催された本大会は今年で3回目。R&AとDPワールドツアーの共催で、EDGA(ヨーロッパ障害者ゴルフ協会)がサポートして行われました。開催コースはイギリス、ロンドンの北に位置するウォーバーンGC。2019年の全英女子オープンで渋野日向子プロが優勝した場所です。“しぶこスマイル”がここから世界中に発信されました。
選手たちは、障がいの種類というよりは障がいレベルで「スポーツクラス」という9つのクラス「SITTING1」「SITTING2」「STANDING1」「STANDING2」「STANDING3」「VISUAL1」「VISUAL2」「INTELLECTUAL1」「INTELLECTUAL2」に分けられます。使用ティーは「グリーン」(女性、車椅子、視覚障がい)と「イエロー」(それ以外)の2種類。各組、11分間隔でスタートしていくのです。
12歳で骨肉腫により左大腿を切断した秋山さんのスポーツクラスは「STANDING2」。昨年の本大会で12年ぶりに国際大会に出場し、結果は41位タイ(総合・以下同)に終わりましたが、「国際大会はやっぱり楽しい。以前より規模も大きくなって盛り上がっている。プロの試合と同じようなフォーマットでやってくれるのですごいです」と興奮気味に話をしていた姿が印象的でした。

今回も4名の日本人選手が出場。同じ宿泊先で、まるで合宿のような生活。お風呂上りにリラックスしてストレッチする秋山さん。「昨年に比べてケアもしっかりしたい。朝、起きてからのストレッチにも時間をかけています」
今回も4名の日本人選手が出場。同じ宿泊先で、まるで合宿のような生活。お風呂上りにリラックスしてストレッチする秋山さん。「昨年に比べてケアもしっかりしたい。朝、起きてからのストレッチにも時間をかけています」
アイアンはTB-7フォージドを使用していますが、今回のコースのセカンドショットにも有用な6IはPC-3フォージドを投入。「左が詰まりやすく、左に引っかけるミスが出る。アイアンのライ角は2度フラットにして左に振り抜けるようにしています」
アイアンはTB-7フォージドを使用していますが、今回のコースのセカンドショットにも有用な6IはPC-3フォージドを投入。「左が詰まりやすく、左に引っかけるミスが出る。アイアンのライ角は2度フラットにして左に振り抜けるようにしています」

 さて試合前日、日本選手4人の“合宿所”を訪ねました。今年の戦いのため、秋山さんはクラブセッティングを少し変えたとのこと。4本入れていたウェッジを、46度、52度、58度の3本にし、その代わりに6番アイアンを入れたのです。
秋山さんは以前より、フォーティーンのフィッターとクラブに出会ったことで、自分のゴルフの可能性が広がったと語っています。「障がい者は特にチェックポイントが多い。考えすぎてミスにつながることもある。それを少しでも減らすことができるクラブ選びはすごく大事です。クラブに頼ることも必要なんです」
 今回は、昨年の経験から、コースの地面が硬いことを考慮してクラブを選びました。
「ウェッジはFRZに替え、バウンスも少なめ(8度)にしてより自由に技を出せるようにしました。また6Iは、UT(26度)と7Iの番手間の距離が大きすぎたので投入。UTでつかまると飛びすぎますしね。6Iはラクに球が上がるPC-3にしました。今年は70台を出して、昨年の成績を上回るようにしたいです」と万全の準備で挑みます。
 また、“即席ユーチューバー”としても活動。「多くの方に、大会の雰囲気やコース、僕の経験を見てもらいたくて急遽アカウントを作りました。

自分自身が発信することで、障がい者ゴルフの普及につなげたいと考えているのです。
「昨年は雨が降ったり気温が低かったりした。気候も関係するのか、今年はとにかく地面が硬い。飛距離も30~40Y違います。ラフも短いから助けにならず、キックして先のブッシュに入るとロストになる可能性も。そういえば初日は、セントアンドリュースのキャディマスターとも回るみたいですから仲良くしたいですね(笑)」

スタート前はコーヒーを飲みながらリラックスするのがルーティン。しかし、昨日まで精力的にやっていた動画撮影を「さすがにプレーに集中したい」と封印していました
スタート前はコーヒーを飲みながらリラックスするのがルーティン。しかし、昨日まで精力的にやっていた動画撮影を「さすがにプレーに集中したい」と封印していました
今年の“第1打”を打つ秋山さん。ウォーバーンGCの3つのコースのなかで、ダッチェスコース(6361Y・パー72)を使用。「狭くて硬いからドライバーはあまりいらないよ」とメンバーさんもアドバイス
今年の“第1打”を打つ秋山さん。ウォーバーンGCの3つのコースのなかで、ダッチェスコース(6361Y・パー72)を使用。「狭くて硬いからドライバーはあまりいらないよ」とメンバーさんもアドバイス

さあ、初日です。天気は「Cloud&Windy」。朝からずっと「It’s very cold!」と暗号のような挨拶が飛び交っています。
スタートホールに現れた秋山さん。「昨年よりは緊張していないかな。いや、やっぱりここに立ったら緊張していますね。この雰囲気にやられます」と顔も少しこわばって……ドライバーを手に、素振り2回のルーティン後、放ったショットは右のラフへ。しかし、元気に手を振りながらスタートしていきました。
 初日の結果は10オーバー、22位タイ。
「パーオン率はよかったのですが、パットがなかなか入らず。同伴競技者にも『今日は君の日じゃないね』と言われました。でもダボなし、何とかボギーで耐えて、初日の緊張の中では我慢のゴルフができた。1つかみ合えばスコアも出ると思うので明日も頑張ります」
いつも冷静かつ詳細に自分のプレーを振り返る秋山さん。これも「ゴルフ力」の1つでしょう。

日本のサムライたち。左から吉田隼人、大村実法、小山田雅人、秋山卓哉。小山田さんと吉田さんはJPGAのティーチングプロ資格を持つ。大村さんは車椅子プレーヤーとして日本人初参戦。“手作りカート”も唯一無二です
日本のサムライたち。左から吉田隼人、大村実法、小山田雅人、秋山卓哉。小山田さんと吉田さんはJPGAのティーチングプロ資格を持つ。大村さんは車椅子プレーヤーとして日本人初参戦。“手作りカート”も唯一無二です

 試合後は、他の日本人選手を待ちながら、パッティンググリーンで遅くまで練習していました。
「こういう遠征のとき、皆で教え合える時間が貴重なんです。ティーチングプロの資格を持っている2人に正しいレッスンをしてもらえる。技、マネジメントから準備の仕方まで。ずっと一緒にいるからわかることがあります。練習環境もすごく良いし、自分の上達につながるから楽しい。今回は低い球の打ち方を教わって、実際、今日使ってすごく成果が出ました。こうしてゴルフがますます好きになるんですよ」と嬉しそう。
この遠征中、日本チームの食事当番も務めた秋山さん。もともと料理は得意だそうで、「毎日メニューを考えています。ステーキを赤ワインで焼いてポテトを添える、キノコとアンチョビのペペロンチーノ、シーフードトマトリゾット、ポークジンジャー、余った豚肉を薄切りにして焼きそば、生姜焼きはみりんがないのでハチミツを使って……」と、よだれが出てきそうなメニューを次々と口にするのでした。

14歳でゴルフを始めた秋山さん。「障がいにより多くのことが“できなくなった″けれど、ゴルフは自分に“できる”ことがあると教えてくれた。18ホール、多くの失敗もあるけれど、小さな成功もあるということも……」。だから、その日の結果が悪くても、もちろん諦めません
14歳でゴルフを始めた秋山さん。「障がいにより多くのことが“できなくなった″けれど、ゴルフは自分に“できる”ことがあると教えてくれた。18ホール、多くの失敗もあるけれど、小さな成功もあるということも……」。だから、その日の結果が悪くても、もちろん諦めません

 2日目です。天気は良好、ほぼ無風。絶好のゴルフ日和です。70台目指して今日も元気にスタートしていった秋山さんでしたが……。ホールアウトするなり、「多くを語りたくない。こんなに悪いゴルフをしたのはかなり久しぶり……」と珍しく憔悴した様子でアテストに向かいました。
「ティーショットは右に行くわ、アイアンはハーフシャンクのようになるわ、毎ホール林の中から打つことになってしまい、どうしていいかわからなくなってしまった。途中で気持ちが切れました」
この日の結果は23オーバーで45位タイに。
「途中、アドレスが右を向いているのかなと思い始めて。ちょっとしたズレから崩れていくことは、“障がい者ゴルフあるある”なんです。良くなったり悪くなったり。でもこれが試合の怖さですし、これがゴルフ。途中から、勝負としてはダメでも、何かを持ち帰ろう、と気持ちを切り替えました。同伴競技者は、ティーショットを一緒に林に打ち込んでもそこからパーやボギーを取って粘る。日本はOBが近いコースも多く、林の奥から出すゴルフをあまりしていない。ここではそこからが勝負。こちらの選手は慣れているから動じません。斜面のクッションを使うのも上手いし、手前から転がしてピタッとピンに付けられる」
 自分のプレーを振り返りながら少しずつ前向きになっていく秋山さん。自己分析能力が高いからこそ、経営者として会社を引っ張れるのでしょう。
秋山さんは“自分は生かされた”と感じていると言います。だからゴルフをすることにも使命感のようなものがあると。「誰にでも僕みたいな病気や事故は起こり得る。そのとき何か生き甲斐があることが大事。突然の悲劇でも、まだできる、またできると思えたら、生きる力になると思うんです」。だから、ゴルフの楽しさも頑張って伝えていきたいと強く思っているのだと。「このままだと悔いが残ります。最終日はいったん“ゼロ”に戻し、ベストを尽くしたいと思います」

最終日、フォーティーンのウェッジのパワーがさく裂!「この硬い地面でバウンスが機能して、グリーンでもきっちり止まってくれました。本当にありがとうございますと言いたい(笑)」
最終日、フォーティーンのウェッジのパワーがさく裂!「この硬い地面でバウンスが機能して、グリーンでもきっちり止まってくれました。本当にありがとうございますと言いたい(笑)」

 さあ、最終日です。またも「It’s cold!」。しかし、選手たちの「最後までベストを尽くそう!」というアツい想いは伝わってきます。
その中の1人である秋山さんですが、この日も冷静。大会全体を見ながら「今年は選手の顔ぶれも若返りました。今トップ10にいる選手のほとんどが10代、20代。日本とは違います。この層の厚さに、ゴルフが文化としての根づいていることを感じさせられます」と分析して、スタートしていきました。
 18番グリーンで待っていると、「最後がパーだったら、70台だった。悔しい!」とホールアウト後の第一声が。「でも耐えた!バーディを取った2ホールは、フォーティーンのウェッジがさく裂しました」と満面の笑みです。
「ホッとしました。これで日本に帰れます。上がり3ホールが難しいので、70台には届かず残念だったけど、昨日のラウンドを考えたらよくやった。心が折れかけていて、どうなっちゃうのかなと思いましたから(笑)」
 では、「フォーティーンのクラブのおかげ」という、この日の2つのバーディについて解説してもらいましょう。
「3番・パー4(310Y)。ティーショットが真っすぐ行き、残り65Y。でもフェアウェイの切れ目でちょっと嫌な感じのライ、しかもバンカー越え。そこでFRZの58度を手に、自信を持って振り抜いたらスピンがピピッとかかり、初バーディです。6番・パー5(489Y)。ティーショットが右ラフに行き、レイアップで残り100Yくらいを狙ったら、キックが悪く跳ねてバンカーに。ここでまたFRZの52度が火を噴くんです。ピン奥1・5mにスピンで止まってバーディです!」
この日の結果は8オーバー。3日間の総合は37位タイで今年の戦いを終えました。

大きな選手2人に囲まれて。選手たちと気さくに話をする秋山さん。童顔だからか、49歳という年齢を伝えると「OMG(オー・マイ・ゴッド)!」と言われることもあるようです
大きな選手2人に囲まれて。選手たちと気さくに話をする秋山さん。童顔だからか、49歳という年齢を伝えると「OMG(オー・マイ・ゴッド)!」と言われることもあるようです

秋山さんはサラリーマン時代にシンガポールに赴任していたことがあり英語が話せます。いつも楽しそうに皆と話をしながらラウンドしています。
「背の高いオランダの選手はすごく褒めてくれたんです。昨日こんなに叩いたと言ったら、『嘘だろう、お前がそんなに打つわけはない!』と(笑)。やっぱり世界大会は楽しい。何より海外遠征に来るとゴルフ漬けになれる。皆ゴルフが大好きなんです。ずっとゴルフをして、ゴルフの話をして。ここに出てくる選手にはプロも多いし、学ぶことがたくさんある。そして、昨年会った選手に『久しぶりだね』と言ってもらえるし、知らない人も必ず挨拶してくれる。ゴルフ場の方やスタッフにもウエルカムな感じがあります。こういう国を越えた交流っていいですよね。ホスピタリティもすごくいい。ストレッチする場所も設備もあるし、PTさんがマッサージしてくれたんですよ」

“もっと上手くなりたい!”はゴルファーの永遠の願い。「ヒリヒリした戦いをして、まだまだ上を目指したい。また来年この大会に来てプレーしたいです」。来年もダークブルーの「G4D」のゲートをくぐることでしょう
“もっと上手くなりたい!”はゴルファーの永遠の願い。「ヒリヒリした戦いをして、まだまだ上を目指したい。また来年この大会に来てプレーしたいです」。来年もダークブルーの「G4D」のゲートをくぐることでしょう

 そして改めて、今大会を振り返り、次への課題を語ります。
「クラブセッティングはいい感じでした。6Iが活躍した。距離的にもすごく使えたし、緊張したり地面が硬いときは、やさしいクラブが助けてくれますね。ただ、技術は改善の余地がある。障害ゆえの特徴をもっと意識しなければ。軸の問題です。もう少しセンシティブに取り組まないといけません。体力もつけたい。疲れてくると軸がブレて、踏ん張りがきかなくなる。そうなることも想定して準備しないといけません」
「もっと上手くなりたい」と少年のような眼差しで語る秋山さん。
「あーあ、3日間終わっちゃった。楽しかったなあ。もう1回、昨日をやりたいなあ」と笑いながら会場を後にしたのでした。

パワフルなショットを打つ秋山さん。得意クラブをあえて言うとUT。「左が義足なので右軸になり、左に体重を乗せづらく、入射角が浅くなる。レベルブローに振るからUTのように重心距離があるクラブのほうが滑らせたりできます。ウェッジでローバウンスが合うのも同じ理由です」

TEXT/Shizuyo Yoshitake
PHOTO/Yasuo Masuda